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2012年4月11日 (水)

『富子すきすき』

宇江佐真理の『富子すきすき』 (講談社文庫)を読む。本の帯に、赤穂浪士に討たれた吉良上野介の妻。彼女から見た「松の廊下」事件とは。とあり、ひかれて読んだ。宇江佐真理らしい、江戸に暮らす人々の 普通の様子がいい。苦労なんてあたりまえ。それでもなんとか生きていく人。便利じゃないからこそ、人と人のつながりにたよらなくてはならず、1人でできないことがいっぱいある。
六編の物語。表題の「富子すきすき」は、忠臣蔵で刷り込まれた吉良憎しとは逆に、吉良の家の目線で描かれる。ある日突然、松の廊下で刃傷沙汰が怒る。自分の夫である吉良上野介の安否を心配する妻、冨子。綱吉に即日切腹を命じられた浅野家の事を気の毒にと思っていた冨子。 冨子にとっては、吉良上野介は優しい夫だった。還暦を過ぎた富子には、松の廊下一件のことが青天の霹靂でいまだに何のためにおこったかわからないと嘆く。 歌舞伎で、あんなに塩谷判官に、大星由良之助に肩入れして観ていても、冨子の目からみた事件以後の変わりように胸を痛めてしまう。 それでも生きていかなきゃねと、力なくも前を向く。静かなその気概が染みた。
冒頭の一遍、「藤太の帯」という話が特に気にいった。平将門を討った俵藤太の百足退治が描かれた帯。古着屋の店先に並んでいたこの帯の、持ち主となった者の決意を描く。がまんしなきゃと普通に暮らしている女達。帯を手にした時に、背中を後押しする勇気をもらう。事を起こすのはちゃんと自分。人には自分できめて変わらなければならない時があるのだなぁと胸を熱くして読む。
その他の「堀留の家」「おいらの姉さん」「面影ほろり」「びんしけん」の4編もとてもよかった。純で健気な江戸に暮らす女達を描く作品集とあるが、男もよかった。

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