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2013年1月25日 (金)

『リア家の人々』

橋本治『リア家の人々』(新潮文庫)を読む。新年早々から読みはじめたが、じっくりと読まざるえない内容なので時間がかかった。感想も難しい。タイトルから、リア王を下じきにしたドラマッチックな荒々しい話かと思った。本書はリア王の孤独が根底にある、一代昭和史でした。橋本治の描いたものでなければ、このようなテーマのものを最後まで読むことができなかったであろう。
帝大出の文部官僚である砺波文三。妻との間に3人の娘がいる。戦争が勃発する。熱い信念があるわけではない。地位のある公職にいたため、敗戦後公職追放の憂き目に逢う。なぜ俺が。といって熱くなるわけでもない。事なかれ感に、少々心がイライラ・ザワザワとするがわからないわけでもない。けなげな妻。苦労ばかりしてがんで逝ってしまう。スーット末娘の静の側に立ち、応援するような気持ちで読む。彼女にとっての父親と、長女や次女にとっての父親は異なってみえる。そこのよくわかる。母をあんなに苦労させたのは誰なのか。愛情が沢山あるが、それを向ける人によって気持ちはかわっていく。気の強い2人の姉に、憎しみを覚えるが、立場をよく考えるとその気持ちがわかる。家族なのに、一緒に住んでいるのに、その気持ちはうまく伝わらない。そこに愛情があるのに、その向きが異なる。誰もが幸せでお気楽の世の中がいいわけではないのだけれども。平凡で普通の家庭にも歳月がながれ、その時代を生きてきた物語できるということを感じた。 私が私がと強きな個性も、こうやって眺めてみるとわりと普通にあるタイプだ。家族に特徴があるのか、時代に特徴があるのか。すごく複雑な気持ちになる本でした。わりと集中して読むのだけど、感動したとか、面白かったとはまた違う。でも、何かがずーんと残る。そういう本でした。

歌舞伎座新開場 あと67日

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