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2013年8月 8日 (木)

『夢を売る男』

百田尚樹『夢を売る男』(太田出版)を読む。百田氏の本ははじめて読みました。1作づつ作風が異なる方らしい。この本から読んでよかったのでありましょうか。面白かったけど。
「出版界を舞台にした掟破りのブラック・コメディ! 」と書かれていました。不愉快なのだけど、ありえなくない。その出版のために、毎日働く事ができないようでそうでもない。自意識過剰な人に対して、ものすごく意地の悪い仕打ちをしているようで、「本」というものをバカにしているようで、それだけでもない。小林信彦のコンゲームを思いだした。だました人がだまされたと気がつかないようにだます。あのテクニックです。
舞台は、丸栄社。敏腕編集者・牛河原勘治が、人々を操る。まさしく牛河原って感じの人物。ジョイント・プレス方式で出版を持ちかえる。自分は普通じゃない、特別なのだと誰もの心の中にある部分に働きかける。自分が本を出すということで、自尊心をくすぐる。言葉巧みに詐欺まがいのことをするが、不愉快にならないのは根底にある本への愛だと思う。これだけ内情を露わにしておいて、最後に年金暮らしのおばあさんの作品をもってくる。最後のくだりにより、何か自分のなかにストンとおさまるのものがあった。本を読む人が減ったことをなげいていてもしかたない。出版社が生き残るために、どうするか。「夢を売る」という題名の奥深さが面白かった。さらさら読めてしまうけど、結構残る作品でした。

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