『まぐだら屋のマリア』
原田マハ『まぐだら屋のマリア』 (幻冬舎文庫)を読む。
東京の老舗料亭で修業をしていた紫紋は、偽装事件ですべてを失う。働くところ、職場の寮という住むところ、やっと母親に孝行できそうな料理人になるという夢も。やっとできたひたむきな後輩が命を絶ったことが、紫紋をそこから逃げ出させた。電車を乗り継ぎ、その先のさみしい道をひたすらバスに乗ると、絵にかいたような人生の終わりの地にたどりつく。バス停の名は、「尽果(さいはて)」。
定食屋「まぐだら屋」で働くマリアに助けられ、行くあてのない紫紋はそこで働くことになる。丁寧に料理を作る。老舗料亭でコツコツとまじめに修業してきたことがしっかりと役に立つ。そこがよかった。下積みで得た力を再発見する。ていねいできちんと作る料理は、おいしい。さいはての寒い土地で働くの人の血や肉となり、喜ばせる。すべてを失ったと思っても、自分には持っているものがあったと気付いたのではないか。
マリアの 左手の薬指がすっぱりと切り落とされていた。謎めいた女性に心惹かれ、一緒に働くことに喜びを感じる。定食屋のオーナーの老女は、マリアのことをひどく憎んでいる。それでも世話をやこうとするマリア。その間に立ち、そこでも自分が必要となる。そんな時に、自分同様に尽果のバス停にたどりつく息も絶え絶えな若者をひろう。自分と同じなのに、その新しい侵入者に、自分の築いた居場所を奪われそうと、気を荒げる。ぶつかり悩み恥をかき、成長していく。淡い恋心の前に、立ちうちできないほど濃厚な恋の物語があったことを知る。むきあうことで、逃げ続けてきた自分を自分で変えていく。
人の弱さと強さが、いとおしい物語でした。
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